「フォーニ!」
クリスの声が、胸に突き刺さった気がした。
悲痛ともとれる顔で、私を見つめている。
「ごめん……クリス」
急いで窓から部屋に入ると、クリスはそっと手を出して、もう一度小さく私の名前を
呼んだ。その手の平に飛び移り、クリスの顔を見上げると、彼は大きく息を吐き出して、
それから無理にでも笑顔をつくろうとした。
「いや……こっちこそ、ごめん。大きな声を出して」
「ううん、だいじょうぶ」
クリスは窓を閉め、片手に私を乗せたまま、ベッドに座った。
「外は雨が降ってるし……その、少し心配だったんだ」
ようやく、彼の顔に本当の安堵の笑みが浮かぶ。
「出かけるなんて、言ってなかったから」
「ごめん……ちょっとだけ用事があったから」
「いや、もういいよ」
クリスの手が、次第に暖かくなっていく。それを肌で感じながら、雨で冷え切ってい
た彼の、寒さを、そして不安を理解した。
「肩に乗せて、クリス」
言われるままにクリスは私を肩まで運ぶ。
「どうしたの? 急に外に出るなんて」
「ちょっとね」
私は無理にでも笑顔をつくり、クリスの頬に触れた。
「それより、温かい紅茶でも飲む? 窓も開けっ放しだったしね」
「ちなみに、その紅茶は誰が作るの?」
「もちろんクリスが作るに決まってるじゃない。私にそんな危ないことさせるつもり?」
いつもの彼の、優しい微笑みがその顔に戻る。
「はいはい……わかってたけどね」
私を肩に乗せたまま、クリスは台所へ向かう。見上げた横顔に、もう陰りはない。で
も今は、その自然にこぼれた笑みが、少しだけ悲しかった。
「ん? ああ……そっか」
台所に残されたままだった、ミルクの入ったお皿をクリスは手に取り、流しに置いた。
「振られた?」
「……そういうのじゃなんだって」
笑いながら答える私に、クリスは明るい声で話し続ける。
そういえばさ――。
その声をどこか遠くで聞きながら、私は窓の外を見つめる。
初めての「またな」という声が、まだ耳の奥に残っていた。
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